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2008年01月02日

馬場俊英~人生という名の列車~

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紅白を見ていたら、馬場さんが出て来た。びっくりした。ほんとにびっくりした。同時に、今、このステージに立っている彼は、心からピース、という心境だろうか?と、ぐっと来た。

彼を知ったのはNHKのETV特集、「生きづらい時代の大人たちへ ~シンガー・馬場俊英のメッセージ~ 」だった。衝撃だった。コンサートが終わった後、観客達がロビーのあちこちで、熱心に何かを書いている。アンケート。誰が読んでくれるとも知れないアンケートに向けて、皆が小さな文字でびっしりと綴っている。こんなに多くの人間が、熱心にアンケートに向かって書いている様を、私は生まれて初めて見た。たとえ景品がもらえるとしたところで、抽選で何かが当たるとしたところで、こんなに多くの人達が、こんなに熱心にアンケートに向かったりはしない。その光景は、明らかに、彼らの心が動かされて、それもものすごく動かされている証拠だ。こんなにも多くの人をアンケートに向かわせた、馬場さん。いったいどんな人だろう、と興味を惹かれた。

リストラシンガー、そんなフレーズで紹介されていた。若くメジャーデビューを果したはいいが契約を打ち切られ、それでも活動を続けながら自作のCDをショップ一軒一軒に売り込みに歩いたりしていたという。一番つらかったのは、その頃どの店を回っても言われた言葉。あなたのCDはいらない。まるで、おまえなんかいらない、と、世の中から言われているような気がした、という。

いったい何があんなに夢中にさせるんだろう? スクールデイズ
真夏のグラウンドは40度を超えすべて奪い取る
なんのドラマも起きない平凡なゲームは最終回のウラ
ヒロシはネクストバッターズ・サークルで ひとり空に
まるでファウルボールのような夢を打ち上げていた
そして目が醒めるように 糸が切れるように
アブラゼミが鳴き止むように 静かにゲームセット

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」ので出し。驚いた。「なんのドラマも起きない平凡なゲーム」。まるで、俺の人生じゃん。そして、ファールボールのように、何も起きずに終わるゲーム。まるで、これからの俺の人生じゃん。衝撃的だった。

そういうことか、と、アンケートの謎が解けた。自分ひとりで噛み締めていた敗北感、無力感。誰にも語れなかった自分だけの傷を、歌っている人がいる。経験し、表現している人がいる。その衝撃が、人々の心を開かせ、思いを語らせるのだろう、そう思った。

紅白で歌われたのは「スタートライン」。ファンに、たぶん最も愛されている曲。ETV特集では、この曲を励みにして、娘の高校進学を機に、転職し、娘と新たなスタートを切ろうと決意したおかぁさんが紹介されていた。驚いた。十代の若者ならともかく、高校に進学する子供を持つ親に、新たな人生のスタートを切ろうと決意させる力。子を持つ親ともなれば、人はそれなりの自分を持っている。積み重ねた人生の日々の中で形成された自分を、普通は壊そうとは考えない。しかも、おいそれと仕事も見つからないこのご時勢で、転職まで決意するというのは並大抵ではない。それほどのパワーを持つ歌、に久々に出会った。

もし、馬場さんが、順調に売れていたとして、果たして紅白に出るなどということがあっただろうか?そんなことを思った。そこそこ売れて、そこそこのファンを得て、そこそこの楽しみを与えていたら、たぶん、今掴んでいるファン達の人生はもう少し違ったものになっているのではないだろうか?なんのドラマも起きない平凡なゲームを、そんなもんさと淡々と消化するだけの無気力な人生を歩いているのではないだろうか?

つくづく、人生とは面白いものだ、と感動した。最大のチャンスは最悪の顔をしてやってくる。メジャー契約を打ち切られた時、そこそこの歌を、そこそこのファンに歌う、そこそこの歌手から、馬場さんを飛躍させるチャンスが来たのだ。心に食い入る歌を、心から感動してくれるファンに歌う、稀代の歌手へと飛躍させるチャンスが。

この世には、特にこの平成という時代には、ファールボールを打ち上げている人間達が沢山いる。彼が、逆転ホームランばかり打てるスター選手だったら、たぶん、彼の言葉は誰にも届いてはいない。彼自身が、たくさん、たくさん、ファールボールを打って来た人間だから、彼の言葉は多くの人の心に届く。そして、動かす。

だから そうだよ くじけそうな時こそ 遠くを見るんだよ
チャンスは何度でも 君のそばに

投稿者 gunship : 2008年01月02日 17:22

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